国民年金、厚生年金、共済年金、企業年金の違いって何?
年金は老後の生活を支える重要な資金ですが、少子高齢化の進展で公的年金の財政状態が悪化、多くの国民が公的年金の将来に不安を抱いています。また、総務省発表の2017年度の「家計調査報告(家計収支編)」によると高齢者夫婦2人の収入を支出が上回り年金だけでは生活が破綻するという現実もあります。平均余命は伸び続けており、これからは人生100年を見据えた生活設計が必要です。
年金は「長生きするリスク」に備える重要な保険の1つです。一方、万が一の事故や病気で「長生きできないリスク」にも生命保険で備える必要があります。現在の医学では長生きできるか、早死にするかは予測できません。そのため、両方のリスクに対してバランスのよい備えをすることが重要です。今回は、長生きのリスクに備えるために必要な年金制度に関する知識について解説します。
第一章 国民年金について
1.国民年金への加入義務と加入期間
国民年金とは、日本国内に住む20歳以上60歳未満の全員が原則として加入しなければならない年金のことです。国民年金加入者は、第1号被保険者、第2号被保険者、第3号被保険者の3種類に分かれます。
2.国民年金の受給額と保険料および第1号、2号、3号被保険者とは
農林漁業を営む人や自営業者、およびその妻(配偶者)、無職の人、学生などは国民年金の保険料を自ら支払う必要があります。このような人を第1号被保険者といいます。なお、原則として40年間が加入期間ですが、国民年金を受給する資格を得るには保険料納付期間が25年以上必要でした。しかし、2017年8月1日から10年以上あれば受給できるように変更されました。この期間には保険料免除期間のほか、納付猶予期間など受給資格期間としてみなせる期間も含まれます。なお、保険料の支払期間が短かければ受給額も比例して減少します。
一方、会社員や公務員など厚生年金保険に加入している人は、給与から支払う国民年金の保険料が控除されます。厚生年金の保険料として控除されますが、そのなかには国民年金の保険料が含まれているので、国民年金にも加入していることになり、このような人を第2号被保険者といいます。また、第2号被保険者に扶養されて年収が130万円未満で20歳以上60歳未満の妻(配偶者)は、届け出をすることで国民年金の加入者となり、第3号被保険者と呼ばれます。第3号被保険者は、第1号被保険者の配偶者とは異なって厚生年金の保険料で国民年金の保険料が負担されているので保険料を支払う必要がありません。条件を満たすと最長65歳まで第3号被保険者になれます。
国民年金保険料と支給額は年ごとに決められます。2018年度の4月から翌年の3月までの保険料は月額16,340円です。保険料支払期間の40年間について全額保険料を支払うと国民年金は満額を受給できます。その金額は月額6万4,941円(年額77万9,300円)です。実際の受給金額は平均で月額5万5,464円です(厚生労働省発表の「平成28年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」による)。
受給開始年齢は原則65歳からですが、希望すれば60歳からの支給や65歳以降からも受給できる繰り上げ、繰り下げ受給が可能です。繰り上げまたは繰り下げ受給を選ぶと期間に応じて受給額は減額または増額されます。
第二章 厚生年金について
1.厚生年金の加入義務者
厚生年金とは、会社員や公務員などの給与所得者が国民年金に加えて保険料を支払って加入しなければならない年金のことです。厚生年金は、国民年金にプラスされた年金を受給できます。このため国民年金は基礎年金と呼ばれ、日本の年金制度は国民年金の上に厚生年金が乗った2階建てといわれます。
2.厚生年金の加入期間と加入の例外について
厚生年金保険料の半額は雇用主(会社など)が負担してくれます。国民年金は原則20歳から60歳までが加入期間ですが、厚生年金は原則として会社へ入社したときから70歳までです。20歳未満から働き始めた場合、20歳になるまでの期間は国民年金には未加入で20歳から加入します。厚生年金を受給するための条件は、国民年金と同様に加入期間が10年以上です。
なお、勤務する会社(事業所単位)が、法人のときは事業所の規模(従業員数)にかかわらず厚生年金に加入しなければなりません。しかし、個人事業の事業所では常時働く従業員が5人未満だと厚生年金への加入が強制でないため加入できない可能性があります。また、パートタイマーでも労働日数・労働時間によって加入が義務付けられます。ただし、日雇いによる勤務や2カ月以内の期間を定めて雇用される場合は加入できません。
3. 厚生年金の保険料の負担の仕組みと金額
厚生年金に加入して支払う保険料は、日本年金機構が毎年発表する厚生年金保険料額表に基づいて給与・賞与額から控除されます。厚生年金保険料額表は、毎月の給与額を段階別に分けて標準報酬額を定め、その金額に厚生年金保険料率を乗じて計算されます。2017年9月(10月納付分)からの厚生年金保険料は、1等級から31等級までの31段階にわけられています。例えば、平均給与の額が40万円とすると、2017年度の場合、給与額が39万5,000円~42万5,000円の間であると標準報酬が41万円(24等級)と決められています。そのため、平均給与が40万円の人は、41万円に厚生年金保険料率を乗じた金額が保険料です。平均給与が15万円とすると、同様に14万6,000円~15万5,000円までの標準報酬が15万円(9等級)と決められており、この15万円に厚生年金保険料率を乗じた金額が保険料です。
平均給与は、2017年4月~6月までの3カ月間の通勤手当、残業代などを含む総支給額を3で割って計算されます。厚生年金の保険料率は2004年9月までは13.58%でしたが、年々引き上げられて、現在(2017年9月から)は18.30%です。18.30%は、2004年の年金制度改正時に決められた上限のため、制度の改正が行われないかぎり今後はこの率で固定されます。
なお、実際に支払う保険料は、雇用主(会社など)が少なくとも半分を負担するため、会社員や公務員が支払う保険料は料率の2分の1です。賞与の保険料は、支給額の1,000円未満の端数を切り捨てた額に、保険料率を乗じて計算されます。給与も賞与も標準報酬・標準賞与額に上限があり、給与が60万5,000円以上は一律62万円です。賞与は上限が150万円のためそれをこえても150万円で保険料が計算されます。
4. 厚生年金の平均の受給金額
厚生年金の保険料は収入によって変動し、受給額も同様に変動します。参考ですが、厚生労働省は夫が平均的収入の平均標準報酬(賞与を含む月額換算)が42.8 万円で40年間就業し、妻がその期間すべて専業主婦であった世帯が年金を受け取り始める場合の受給額を月額22万1,277円(妻の国民年金の満額保険料を含みます)と発表しています。
第三章 共済年金について
公務員が加入する共済年金は、保険料が折半など基本的な仕組みは厚生年金と同じです。しかし、厚生年金と比較すると「優遇されている」「支給額が高い」といわれ、厚生年金とは別の独立した年金として運用されていました。しかし、2015年10月から共済年金は廃止され厚生年金に統合されました。
共済年金には、厚生年金にはない年金の上乗せ制度「職域加算」があり、これが大きなメリットとなっていました。このため厚生年金は2階建てといわれますが、共済年金は3階建ての年金といわれていました。年齢、給与、勤務年数が同じなら、勤務先は異なっても受給する年金は同額になるはずですが、職域加算によって年金額は、約2割も多くなるのでかなり大きな差です。その他にも保険料が割安、70歳をこえても加入できるなど厚生年金よりも優遇されていました。統合後も優遇されていた部分の一部は形を変えて存続していますが、全体として格差は縮小し、いずれは厚生年金と同一条件になります。
第四章 企業年金について
企業年金は、加入義務のある国民年金、厚生年金(共済年金)の公的年金とは異なって、民間企業が福利厚生のために退職した社員に年金を支給するために設ける私的年金です。そのため企業年金を設けていない企業もあります。また、企業年金を設けている企業では、その企業の社員は全員加入が原則ですが一部の社員の加入を除外したり、加入を選択できたりすることも可能な制度です。企業年金は、掛け金を企業が負担するタイプと、従業員が負担するタイプ、退職金を原資に年金として支給するタイプなどがあります。
第五章 まとめ
公的年金は、給与や加入期間、加入する年金の種類などによって受給できる年金額が大きく変わってきます。そのため将来の受給額を想定して不足する老後の生活資金を準備することが重要です。併せて不測の事態に対する備えとして生命保険への加入を検討することも重要です。年金制度は複雑ですが、公的年金と企業年金について概要がわかるように解説しました。なお、制度や保険料、および年金受給金額は最新の情報を確認するようにしてください。変更される可能性があります。