遺伝情報の解析技術の進展で保険制度は変わる可能性がある?

2018年7月25日

近年、遺伝情報に関する話題はニュースで多く取り上げられて身近になりました。例えば、遺伝子情報の解析が進みハリウッドの有名女優が遺伝子検査で乳がんや卵巣がんになる可能性が高いことを知って発症前に手術をしたり、犯人の特定にDNA(遺伝子)鑑定が行われたりしています。遺伝子検査を受けると以下のようなさまざまなことがわかります。また、遺伝子検査も低コストでできるようになり、今後ますます関心が高まっていくと思われます。

  • 将来発症する可能性のある病名
  • 病気に対する薬の効きやすさや副作用の有無や強さ
  • 味覚や触覚、アルコールに対する体質
  • 親子関係の鑑定
  • 身長、肥満、髪の量や質、肌質、顔の作り、肌・髪・瞳の色など外見上の傾向
  • 陽気/陰気、積極的/消極的、ストレス耐性などの性格
  • 運動、音楽、美術などの才能、および論理的思考、情報処理、注意力、集中力、記憶力などの能力
  • 先祖のルーツ

今回は、個人のさまざまなことがわかってしまう遺伝情報と保険の関係について生じる問題について解説します。

保険加入時に遺伝情報は必要?

遺伝子検査で個人についてさまざまなことがわかるほか個人の特定ができるため遺伝情報は究極の個人情報です。この個人情報である遺伝情報を利用することで差別や偏見につながる行為は人権上決して許されません。また、遺伝情報の管理がしっかり行われずに外部に漏れると悪用されてさまざまな問題が起きる危険性があります。

このように重要な遺伝情報ですが、2017年11月に生命保険会社最大手の日本生命相互会社でこの遺伝情報を保険への加入審査に利用しているような表現が一部の保険の約款に記載されていることが判明しました。実際に利用されているとしたら、差別に当たる可能性があり問題です。日本生命は、すぐさま声明を発表し、遺伝情報を加入審査に利用することは1978年に保険への加入時の告知書などを変更し、家族の病歴などの遺伝情報収集は行っておらず審査には利用していないと発表し、記載が残っていたことについては謝罪しました。今回、問題になったのは特定の保険の約款に「遺伝情報」の用語が削除されずに残っていたためで実際には、その保険を含めすべての保険契約で遺伝情報の利用はされていなかったようです。

今回の問題について遺伝差別問題に詳しい大学教授は、実際に遺伝情報を使っていなくても約款に残っていることを見逃しているだけでも遺伝情報の取り扱いに関する意識が低いことを示しており残念なことだと述べています。そして、消費者も保険の契約にあたっては注意すべきと述べていますが、金融庁が他の保険会社の約款を調べたところ、数社の書類に遺伝や家族の病歴が保険内容に影響すると誤解される記載があり、各社はそれらを削除するという動きが見られました。これら一連の動きはあくまで自主的なものであり、遺伝情報によって保険加入に差をつけることは海外では、差別として規制している国がありますが、日本ではまだ明確なルールはなく今後の課題となっています。

遺伝子画像3

アメリカで起こった遺伝子差別と遺伝子情報差別禁止法について

1.アメリカにおける遺伝情報による差別事例

遺伝情報は、個人を特定できる究極の個人情報のため遺伝情報の利用はプライバシー侵害であり、それをもとにした差別は個人の人権を守るために許されないことは共通の認識となっています。しかし、実際には遺伝情報に基づいた差別がさまざまな場面で行われています。アメリカのマサチューセッツ州に「責任ある遺伝学協会(Council for Responsible Genetics」と呼ばれる民間団体があり、アメリカにおける遺伝情報によるプライバシー侵害や差別の事例を公開しています。公開された事例では、ほとんどの人が健康で遺伝子疾患の症状がでていないのに差別を受けています。実際に起きた差別事例を4件紹介します。

・事例1

遺伝的に体内に鉄分が過剰に増加する病気(遺伝性ヘモクロマトーシス)と診断された女性が、過剰な鉄分を体内から取り出すことで合併症を予防でき、また健康であるにもかかわらず健康保険契約を一方的に解除された。

・事例2

遺伝子検査で先天性脂質代謝異常の病気(ゴーシェ病)になる可能性があると判明した男性が、発症していないのに応募した仕事でそのことを理由として雇用を拒否された。

・事例3

日本でも難病に指定されている知能障害や発達障害を起こす先天性の遺伝性疾患(フェニルケトン尿症)の治療を受けて、正常な状態(健康)になったにもかかわらず、病気になるリスクが高いと診断されて健康保険の加入を断られた。

・事例4

傷ついたDNAを修復する働きがあるBRCA2遺伝子の異常は、乳がんと卵巣がんの発症を高めますが、そのことを遺伝子検査で知り、乳がん予防のために乳房を切除した女性が手術後に解雇された。

2.遺伝子差別禁止法との遺伝情報取り扱いの関係

アメリカでは、年齢、人種、性別、出身国、宗教、文化、障害の有無などによる雇用差別や賃金差別を禁止する法律が多数制定されました。また、1964年にはアメリカ雇用機会均等委員会(EEOC)という監督機関が設立されて各法律に違反する差別やハラスメント違反を見張り、違反報告を受け付けています。さらに、遺伝情報の差別に関して2008年にアメリカ遺伝子情報差別禁止法(GINA)が制定されました。これにより、遺伝情報を理由に健康保険加入や保険料などに関する差別のほか、雇用、解雇、仕事の割り当て、昇進、降格などに関する差別も禁止されました。違反報告を受け付けるEEOCは、違反企業に差別を受けた被害者へ補償をさせており一定の差別防止に役立っています。しかし、GINAが制定されても、まだ差別が生じており問題が残っています。

遺伝子画像2

本当に保険加入時の診査に遺伝子検査は悪なのか?

現在、日本では保険加入時に遺伝情報が利用されていないことは、日本生命の約款に問題のある記載が残っていた件で紹介しました。しかし、遺伝情報を保険加入時に利用することは完全に避けなければならないほど「悪」なのでしょうか? なぜなら、保険の原則はそれぞれがリスクに応じた保険料を出しあって、万一のときに備えて支え合う制度だからです。そのため生命保険では、高齢になって加入するほど一般的に保険料は高額になり地震保険では地震の起こるリスクが高いと予測されている地域ほど保険料は高くなっています。

もし遺伝子検査で病気になるリスクが高いとわかった人が、高額な保険をもらえる保険にリスクの低い人も含めた保険料で加入できると保険の公平さが失われます。ただ、現時点での技術水準の遺伝子検査で病気になると確実に診断できるのは「単一遺伝子病(または単一遺伝疾患)」といわれる病気です。この病気を発症する人の割合は低いですが、発症すると重い症状が出る病気です。主な病気には、「進行性筋ジストロフィー」「血友病A」「家族性高コレステロール血症」「ハンチントン氏舞踏病」などがあります。これらの病気に対する遺伝子検査は、検査する機会も少なく、また費用と精度の両面からみて制約があり、日常的には行われていません。そのため、この「単一遺伝子病」が保険の公平性に重大な影響を与えるレベルにはないと考えられています。

一方、糖尿病、がん、高血圧、リウマチ、痛風、高脂血症など多くの人が発症する可能性のある病気は、「多因子性疾患」と呼ばれます。「多因子性疾患」は、複数の遺伝要因と食生活、タバコ、飲酒、ストレスなどの生活習慣(環境要因)とが複雑に関連して発症します。同じ遺伝子であっても必ずしも発症せず、環境要因によって発症確率が大きく異なる病気です。今後、遺伝情報の研究が進み、遺伝子検査で「単一遺伝子病」のように病気になる確率がはっきりとわかるようになって、その遺伝子検査も簡単にできるようになると保険の公平性がくずれる可能性があります。

その理由は、もし遺伝子検査で病気になる可能性が確実にわかったとすると、高い確率で病気になると知った人は、告知しないで新たな保険や高額な保険へ加入したくなるに違いありません。低リスクとわかった人は、保険を解約または金額を下げて保険料を安くするように行動するでしょう。そのため遺伝子検査の進展にあわせて保険の原則を維持しつつ、個人情報の保護も考慮したうえで相互に支え合える保険制度の構築が必要になるでしょう。

遺伝子画像1

まとめ

全国共済は、保険の原則の公平を期すために健康状態の告知は必要ですが、保険への加入にあたって遺伝情報の提供の義務はもちろんありません。また、健康状態の確認のために医師などによる診査を受ける必要もありません。安い費用で簡単・気軽に加入できる全国共済で安心な生活を送れるように保険加入を検討してみてはいかがでしょうか。

 

全国共済(都道府県民グループ)への加入をお考えの方は、まずは資料請求からいかがでしょうか?こちらから全国共済への資料請求ができますので、ぜひお役立てください。